奥出雲おろち号

 鉄道ファン歴の長い僕ですが、これほどまでに乗客(観光客)に愛され、鉄道ファンに愛され、沿線の方々に愛された列車を他に知りません。それはJR西日本木次(きすき)線の名物観光トロッコ列車、奥出雲おろち号です。1998年(平成10年)4月の運行開始から26年を経ますがこの度、車体の老朽化を理由にその歴史に終止符が打たれることになりました。こればかりは仕方がないこととはいえ、本当に寂しく残念に思います。

 

「日本神話の神、素戔嗚尊(スサノオノミコト)が高天原より斐伊川のほとりに降り立ち、その川の上流に住むヤマタノオロチを退治する」という出雲神話がこの列車名の由来です。木次線の沿線にはこの伝説に因んだ土地がいくつもあるそうで、普段は利用客の少ないローカル線である木次線の利用促進を目的とする運行だったのでした。調べてみますと年間利用者が2万人を突破する年もこれまでにあったようで、観光資源としては十分すぎる実績を残しています。

 使用される車両はDE10と12系客車2両です。動力となるディーゼル機関車DE10 1161は専用塗装を身にまとい、2010年(平成22年)からおろち号の専用機関車となっています。次位に来る2号車スハフ12 801は冷暖房装置とトイレ・洗面台を備えた控車で、かつて急行「だいせん」「ちくま」に使用されたことがあるそうです。(改造前の種車はスハフ12 40。)車内は座席がリクライニング化されてはいるものの、国鉄時代の雰囲気が色濃く残っており、それだけでも歴史的価値がありそうです。なにせ製造から52年(製造年は1970年!還暦も近い僕がまだ5歳の時でした。)を経ているというわけですから、これは驚きですよね。トロッコ車両1号車はスハフ13 801。スハフ12 148に運転台を備え付け、トロッコ改造を施しています。指定券を購入すれば、1号車・2号車と同じ座席番号が使用できるそうです。

DE10 1161

スハフ12 801

スハフ13 801

 奥出雲おろち号の走行動画や乗車記録をこれまで何回も観てきましたが、観光列車である以上に、木次線沿線の名産や人々とのふれあいが楽しめる素晴らしい体験列車であるように思えました。風光明媚な景色を堪能できることはもちろん、沿線の幼稚園に通う園児たちや住人の方々が列車に向かって手を振ってくれたり、各停車駅ではお弁当(寿司・肉・そば)や焼き鳥、クリーム大福が購入でき、時には子どもたちの歌や踊りが披露されたりと動画を観ているこちらも温かい気持に包まれて、共に旅を楽しんでいる気分になってしまいました。余談ですが、DE10と2両の12系客車の全体を俯瞰すると、僕の目にはおろちのように見えてしまいます。その走る姿はまるでおろちが乗客を運んでいるかのようで、とても幻想的な光景に感じてしまいます。

 奥出雲おろち号は令和5年11月23日が最終運行、ラストランとなります。もともとチケットの取りにくい(加えて特急との接続の悪い)列車として有名でしたが、ラストランが近づくとますますチケットの入手が困難になっているみたいですね。この列車の無き後はどうやら「あめつち」が後任になるようです。あめつちもたいへん素晴らしい列車なので木次線の観光客誘致に一役買ってくれるはずですが、(良い悪いではなく)奥出雲おろち号とはまったくテイストの違う旅になりそうな気がしています。まあ、それはよいとして...。僕は去り行く奥出雲おろち号に敬意を込めて、ラストランの日に合わせてこのコンテンツをアップさせてもらいました。多くの乗客に愛され感動を与えた素晴らしいトロッコ列車に敬礼!

  





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