私を前橋駅へ連れて行って


 僕は福岡県北九州市の出身なのですが、3歳から9歳までは群馬県前橋市に住んでいました。ですから僕の幼少期の記憶は前橋で暮らした日々から始まります。楽しいことばかりじゃなくてイヤなこともあったけれど、たくさんの思い出がある前橋は僕の第二の故郷なのです。昭和40年代、当時の前橋市は実に活気に満ちていました。ある日曜日、親に連れられて出かけたデパート「スズラン百貨店」。周辺の通りはものすごい人混みで真っすぐに歩くことができず、子ども心に迷子にならないように、と手に汗をかきつつ必死に親にしがみついていたのも懐かしい思い出です。動画サイトで現在の前橋市の商店街の様子を知ることができますが、あまりの寂れ具合に僕はショックを受けて言葉を失いました。まあ、この現象は前橋に限ったことではないのですけど...。

 昔と変わらない姿の赤城山

 さて、令和6年2月某日のことです。何気なくネットニュースの見出しを眺めていたのですが、とある記事が目に留まりました。『「私を前橋に連れて行って」再生回数21万回超え!』とあります。興味を覚えて記事に目を通しますと、これはロシア出身で前橋市在住の方が作成した前橋のPR動画のタイトルだったのでした。家を飛び出した少女が前橋の商店街でさまざまな人々やキャラクターと遭遇しながら、ダンスを織り交ぜていくプロモーション動画なのですが、ストーリーはなんとも意味の分からない、シュールなものに仕上がっています。そして最後の場面で「Take me with you to MAEBASHI(私を前橋に連れて行って)」なるメッセージが! この動画は海外で大きな反響があり、1か月で21万回再生を記録したそうです。(国内では少しも話題になっていないようですが...(^^;)> )

 3番のりばからの眺め

 そうなりますと僕としては「Take me with you to MAEBASHI STATION(私を前橋駅に連れて行って)」を記事にしたくなります。前橋駅に乗り入れる列車をNゲージの模型を使って紹介するという...実にヒマな企画であります。しばしお付き合いくださいませ。

 ご存知ない方もいらっしゃると思います。前橋駅はJR東日本両毛線にある駅です。両毛線は群馬県の高崎駅と栃木県の小山駅とを結ぶ路線です。厳密には前橋駅の高崎寄り一つ隣の新前橋駅と小山駅を結ぶ路線となっているようですが、高崎駅発着の列車がほとんどであるため、この区間が両毛線として広く認識されているようです。それでは「私を前橋駅に連れて行って」。鉄道を用いて前橋駅へアクセスするには高崎方から両毛線下りを使って、または小山方から両毛線上りを使って、ということになります。かつては現在の主力車両である211系の他、107系、115系、特急あかぎとして185系、651系など、バラエティーに富んだ列車が見られましたが、廃車や特急乗り入れの終了などに伴い、その種類が限られてしまってずいぶんと寂しくなりました。

211系3000番台
 

 

 211系は国鉄時代だった1985年(昭和60年)、113系・115系の後継車として登場した軽量ステンレスボディの近郊型直流電車です。現在、両毛線の運用に就いている211系はすべて3000番台。これは寒冷地仕様のロングシート車で、1986年(昭和61年)から運転が開始されています。さて、211系高崎車両センター所属車は4両編成(クハ‐サハ‐モハ‐クモハ)と6両編成(クハ‐モハ‐クモハ ×2)とに組成され両毛線全区間で運用にあたっておりまして、定期列車で運転されているものに限れば、前橋〜小山間はすべて211系で統一されていたと思います。なので小山方から前橋を目指せば211系の利用一択、ということになりますね。

 平成30年3月に高タカ115系のお別れ乗車に出向いた際、新前橋から前橋、前橋から高崎まで4両編成の211系を利用しました。クハに乗車したからでしょうか、モーター音がなく軽やかな走行で実に快適な乗り心地を体験できました。まだまだ若々しい(?)電車のように思えてしまいますが、車齢はすでに35年を超えているのではないでしょうか。考えてみれば不要となったグリーン車サロや編成組み換えで余剰となった付随車サハ以外にも廃車になった仲間たちがいるのですよね。両毛線は貴重な国鉄型車両に当たり前のように乗車することができる路線なのです。



E231系
 

 

 老朽化した113系と115系の置き換えを目的に、2000年に小山、2004年に国府津へ近郊タイプのE231系が配備されました。個性的な前面デザイン、4扉のステンレスボディ、馴染みの湘南帯、関東一円の運用を想定した寒冷地仕様...、僕は鉄道専門誌でこの電車の詳細を知りまして、これは近郊型電車の完成形ではないかっ、と驚きました。当初、小山車はモノクラス10連(+付属編成として5連)でしたが、東海道線用E231系が国府津車両センターへ配備された際に小山車にも4号車と5号車に2両の2階建てグリーン車が組み込まれました。前橋駅には10連基本編成が乗り入れます。通勤電車にグリーン車を連結...、田舎者の僕は「都会」を感じてしまいますね。

 通常、E231系は湘南新宿ライン経由の快速前橋行き、あるいは上野東京ライン経由の普通前橋行きとして運転されているようです。時刻表で確認しましたが、湘南新宿ライン経由・上野東京ライン経由の列車はものすごく本数が少なくて驚きました。上野から前橋行きの電車が数多く運転されていた時代をよく知っているだけに、仕方がないとはいえ現行ダイヤを見てとても残念な気持ちになりました。さて、E231系はすべて前橋駅止まりになりますので、2番ホームに到着した後はそのまま新前橋方に折り返す運用となります。そうなりますと、前橋駅の1番のりばと3番のりばは211系の専用ホーム、ということになりますでしょうか。



E233系3000番台
 

 

 近郊タイプのE233系3000番台は211系の置き換えを目的に新製されましたが、2012年(平成24年)から両毛線への乗り入れが始まっています。E231系にも増して車体構造(安全性)や乗客への配慮(快適性)を追求した形式となっています。前述のE231系はまだまだ完成形ではなかったわけで、これぞまさに究極の近郊型電車と評価できるのではないでしょうか。鉄道車両って絶えず進化し続けるものなんですね。さて、E233系3000番台は10両の基本編成と5両の付属編成とがありますが、前橋駅に乗り入れるのは2両の2階建てグリーン車組み込みの基本編成です。なお、E231系とE233系3000番台双方の基本編成はともに10両で組成されており、2両のグリーン車も4号車・5号車と同一であるため、ホームの乗車位置は両形式とも同じとなります。

 平成30年3月のある土曜日、高タカ115系に会いに(お別れに)行くため、僕は東京駅のホームにいました。東京駅から高崎駅まではあえて新幹線を使わずに、在来線各駅停車高崎行きの2階建てグリーン車を利用しました。それがE233系3000番台の初乗車です。九州の田舎から出てきたおのぼりさんは4号車グリーン車の2階部分のシートに座りましたが、子どもが大好きなテーマパークに入場した時に感じる高揚感がこんな感じなんだろうな、と思えるほどに興奮していました。初乗車だったからでしょうか、はたまたグリーン車の乗り心地が良かったからでしょうか、各駅停車でありながら東京から高崎到着まで静かな車内で快適に過ごすことができ、沿線風景を眺めながらまったく退屈することはありませんでしたね。

 新宿、東京方面から前橋駅へのアクセスはグリーン車で!と言いたいのですが、乗り換えなしの直通列車で前橋を目指しますと到着は夜遅くになってしまいます。その際はお宿の予約を忘れずに、ですね。現実的には高崎まで新幹線や在来線特急を利用して、高崎から両毛線の211系に乗り換え、となりそうです。2024年(令和6年)3月にダイヤ改正がありました。もしかしたらこの改正で運用車両に再び変化が生じているかもしれません。かつてのように前橋市が賑わいを取り戻し、前橋駅に優等列車や長距離列車が頻繁に入線する時代を迎えることができれば嬉しいなぁ、と心から思いますね。「あかぎ」がやって来ない前橋駅なんて寂しすぎます。





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