九州を駆けた国鉄型電機たち(その3)



EF70形

 

 EF70形電気機関車は生粋の九州っ子ではありません。北陸地区の電化にともなって敦賀や富山に全81両が配置されましたが、同地区に増備されたEF81形により余剰気味となり、1981年(昭和56年)に61号機〜81号機の21両が門司機関区に転属してきたのでした。(結果的に同区のED72形、ED73形を玉突きで淘汰することになりました。)

 交流を直流に変換する機器については、それまで用いられていた大型で重量のある水銀整流器からシリコン整流器とし、性能や保守面は格段に向上したそうです。しかし、電圧を連続的に制御することができなくなって直流電機に似た制御方式になってしまい、空転対策で動輪軸数を6軸(F級)にしています。技術的には過渡期の電機機関車だったようです。

 EF70形が九州で活躍した期間は思いのほか短くて、1981年(昭和56年)から1987年(昭和62年)までの約6年間でした。それでも、ED76初期車と共通運用が組まれて、あさかぜやさくらといった花形ブルートレインの牽引仕業もありました。残念ながら、僕にはEF70形の記憶がありません。予備校通学で利用した小倉駅で見たはずなんだけどなあ。



ED74形

 EF70形同様、ED74形も九州っ子ではありません。1962年(昭和37年)生まれのED74形ですが、その位置づけとしてはEF70形の発展増備機ということになるでしょうか。当時、北陸本線の敦賀以北は線路規格の問題から入線する機関車に重量制限がありました。ED74形はEF70形の性能を踏襲しつつ、軽量化に苦心した電機だったようです。

 ただでさえ空転しやすい制御方式に軽量化を実施したわけで、ED74形には空転対策の新機軸が盛り込まれました。電圧を一定に保つために、タップと呼ばれるコイルの途中につながれるスイッチの足をEF70形の倍にしたり、加速する際に前輪が浮き上がらないようにする構造を取り入れたりなど。(その構造は次のED75形に引き継がれます。)

 さまざまな苦労の末に誕生したED74形ですが、使い勝手ではEF70形に勝るところがなく、結局は全6両という小さな所帯にとどまりました。1968年(昭和43年)、大分地区の電化開業に合わせて全機が大分機関区に転属しますが空転しやすく、一般客車用の暖房装置を持たず、抜群に性能の良い後継機であるED76形の登場も相まって、活躍の場は非常に限られていました。20系客車牽引用の改造工事を受けていたために「彗星」や「富士」の牽引仕業があったのはED74形にとって幸せだったのかもしれません。1978年(昭和53年)には全機が休車となり、やがて廃車解体となりました。



ED75形300番台

 ED75形電気機関車を一言で表現しますと、EF70形、ED74形といった交流型電気機関車の欠点を一掃した電機といえます。「磁気増幅器」の開発により、低速時に電圧変化や空転が起きにくい回路特性が実現しています。ED75形300番台は1965年(昭和40年)の熊本地区の電化開業に合わせ、九州用に交流60Hz貨物牽引用電機として増備されたグループです。

 ED75形300番台は1968年(昭和43年)に高速化改造を受けておりまして、10000系貨車牽引を中心とする高速貨物列車に限定運用されるものと思われていました。しかし、同機の活躍も末期となる1984年(昭和59年)ごろからブルートレイン牽引機としても活躍するようになります。時期を同じくして、この頃からブルートレインのヘッドマークが機関車前面に掲出されるようになりました。

 小柄で貫通扉のついた電機が「あさかぜ」「さくら」などの名門ブルートレインを牽引する姿はさぞや絵になったことだろうなと思います。運用の関係で時に上り「みずほ」はED75形300番台とED76形の重連が見られることがあったとか。今では夢のような光景が実際に見られていたのですね。ああ、あの頃に戻りたい...。



ED76形・前期型0番台

 ここでいよいよ九州電機の主役、ED76形の登場となります。ED76形電気機関車はED75形に蒸気発生装置を取り付けた形式となっていて、水と油を搭載し車体の重量が変化することから、軸重を調整できる中間台車を装備していました。その結果、車体長も伸びていて、この点はED72形によく似ています。この中間台車のおかげで、九州内ではたいへん重宝される存在となったわけですね。

 このED76形、前期型と一言でくくってもさまざまなマイナーチェンジが見られます。中間台車のブレーキの有無、そしてパンタグラフの形状。(30号機までの外観上の大きな特徴はなんといっても大型のパンタグラフ(PS100A)でしょう。)前期型に共通するのは屋根上の空気遮断器(圧縮された空気による高速度の空気流で電流の開閉を行う遮断器)が装備されていることでしょうか。0番台では54号機までがこの仕様に相当します。

 ED76形がさっそうと長編成のブルートレインを牽引する姿、これこそまさに僕が見慣れてきた光景です。本当にカッコイイですね。赤い電機と青い客車の組み合わせに旅情を感じた方も少なくないことでしょう。令和の時代にはすでに消滅した光景ですが、模型の世界ではまだまだ楽しめます。それではもう少しくわしくED76形電気機関車をみていくことにいたしましょう。


九州を駆けた国鉄型電機たち(その4)





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